若者は鍵を拾った。
期待に胸ふくらませ、その鍵に合う扉を探しに世界中を旅した。
その扉の向こうに何があるのか希望を持って。
いつしか若者は年をとり、老人となり、皺が増えた。
しかし、扉は見つからなかった。
とうとう老人は錠前屋で鍵に見合う扉を作った。
もう残りの人生は少ない。
鍵をかけ、その部屋に閉じこもった・・・
すると扉が開き、幸運の女神が現れた。
「あの鍵はわたしがわざと落としていったものなのよ。
やっと扉を作っていただけたのね」
なぜ、なぜもっと早く現れなかったのか、老人は思った。
「さあ、望みを叶えてあげましょう。」
すると男は言った。
「なにもいらない。いまのわたしに必要なのは、思い出だけだ。
それは持っている」
~星 新一『鍵』より、改変~
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